コロナワクチンの安全性と陰謀論にハマる人達の思惑

◇医療に100％の安全は存在しない

そもそも医療行為に100％の安全など存在しない。

誰もが理解できる事実です。

しかし人は不安になると、つい「完全に安全なもの」を求めてしまう。

だが現実の医療は常に危険と隣り合わせであり、完璧ではなく「より、ましな選択」を積み重ねてきた歴史でできている。

薬もワクチンも、最初から安全で完璧なものではない。

その裏には失敗、犠牲、そして膨大な検証がある。

現代の医療がここまで進歩したのは、危険を恐れずに仮説を立て、修正を続けてきた人々の努力があったからだ。

つまり医療とは、安全を探すために危険を受け入れる学問であり、犠牲の上に成立する進化の仕組みなのだ。

◇犠牲の上に築かれた進化の構造

今も昔も、そしてこれからもずっと、医療とは犠牲の上に成り立つものである。

その痛みや犠牲を糧にして次の治療法が改善され、次の時代の命が救われていく。

それは冷たいようでいて、人類が共有する贖罪と進化の証でもある。

それでも一部の人は、見えない犠牲を見ようとせず、都合の良い断片的な情報だけを信じてしまう。

その代表的な例が、コロナワクチンをめぐる陰謀論。

科学とは完璧さを追うものではなく、確率を少しずつ改善していくもの。

安全とはゼロリスクではなく、リスクを最小化する方向を選ぶことにある。

◇陰謀論が蔓延る心理的構造

それに伴って蔓延る陰謀論。

陰謀論にハマる人達の構造には、いくつかの心理学的メカニズムが存在します。

■まず一つ目は確証バイアス。

人は自分が信じたいことを裏付ける情報ばかりを集め、反対の証拠を無視する傾向を持つ。

SNSはこの心理を巧妙に利用し、似た考えの情報ばかりを提示する。

結果、世界が「自分の信じる真実」で埋め尽くされる。

そして「自分は正しい」という錯覚が強化されていく。

■二つ目はコントロール幻想。

不安で不確実な世界の中で、人は「自分だけは真実を知っている」と思いたくなる。

見えないウイルス、複雑な政治、理解できない医療用語。

それらを制御できない無力感を、陰謀論は一時的に和らげてくれる。

つまり陰謀論は、心理的には安心剤のような役割を果たしている。

■三つ目は所属欲求とアイデンティティ防衛。

人は孤独に耐えられない。

陰謀論を信じることで同じ考えを持つ仲間ができ、共通の敵を共有することで一体感と優越感が生まれる。

そして反対意見を受けると「自分の存在そのものを否定された」と感じ、より強く信じ込むようになる。

◇人は理性ではなく感情で信じる

陰謀論に惹かれるのは知識の欠如ではなく、感情の構造の問題である。

人は不安を抱えると、理性よりも感情に従ってしまう。

その感情を利用しようとする人間が現れたとき、思考は奪われていく。

陰謀論とは、情報操作であると同時に、人間の心の弱さが作り出した鏡でもある。

大切なのは、陰謀論を信じる人を嘲笑することではない。

なぜそう信じたのか、その背景を理解すること。

恐怖や不信の裏には、必ず「自分を守りたい」という願いがある。

その心理を丁寧に見つめなければ、社会は分断され続けてしまう。

◇理性というワクチンを持て

科学が確率を更新し続けるように、人間も思考を更新し続けなければならない。

真実とは誰かが教えてくれるものではなく、自分の頭で考え続けることによって見つかる。

ワクチンの安全性を語る前に、人間の不安の構造を理解すること。

科学を疑うのではなく、感情に流されない理性を鍛えること。

それこそが、これからの時代を生き抜くための本当のワクチンなのかもしれない。

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