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ジューンブライドという名のビジネスモデル ――ロマンと商機が結婚した日

  • 執筆者の写真: yuki kato
    yuki kato
  • 5月6日
  • 読了時間: 3分

6月に結婚すると幸せになれる。そう聞いて、心が少しだけふわっと軽くなる。たとえ梅雨空でも、そんな言葉があるだけで、式場探しの背中をそっと押してくれる気がする。


だがこの言葉、よくよく調べてみると、ヨーロッパの神話と日本のブライダル業界が仕掛けた共同幻想でできている。

これは、バレンタインデーが日本で独自進化を遂げた構造とまったく同じ。

つまりジューンブライドという言葉には、文化とマーケティングが手を取り合ったビジネスの仕掛けが隠れているのだ。



■ 起源はローマ神話。でも本番は日本だった


June Brideはもともとローマ神話に登場する女神ジュノーに由来する。彼女は結婚と出産を司る女神であり、6月に祝福を受けた花嫁は幸せになれると言われていた。


だが、これはあくまでヨーロッパの話。湿気が少なく、屋外での結婚式にも向いていた地域だからこそ、6月という季節に幸福が重ねられた。


日本ではまったく事情が違う。6月といえば梅雨。雨、湿気、カビ、くせ毛泣かせ。結婚式どころじゃない。そんな時期に、なぜ今や当たり前のように結婚ラッシュが起きているのか。


そこには、式場業界のある焦りがあった。



■ サイドストーリー:とあるホテルウエディングの逆転劇


2000年代初頭、ある関東圏の老舗ホテルでは6月の挙式数が極端に少なかった。他の月が平均30件あるのに、6月だけは5件も入らない。

赤字続きだった6月の帳尻を合わせるため、支配人とマーケティング担当は言葉の力に賭けた。


ジューンブライド特別プランという名目で、プラン料金を少し下げ、雨天でも絵になるチャペルのライティング演出を強化。さらに雨が降ったらサプライズ演出付きの特典を用意した。


それだけではない。式場内のパンフレット、スタッフのトークスクリプト、SNSの投稿内容まで、6月=幸せな結婚の月で統一した。


結果は見事に的中。

数年後には6月の予約が他の月を超える人気月に昇格した。もはや人々は梅雨だからやめようではなく、ジューンブライドだから6月にしようと言うようになっていた。


このようにして、季節のデメリットは、物語の力でプラスに変えられたのだ。



■ バレンタインと同じ、意味を設計するマーケティング


では、ジューンブライドのような文化はどうやって根付くのか。そのヒントは、バレンタインデーにある。


日本ではバレンタインといえば、女性が男性にチョコを贈る日。でもこれは、昭和30年代にある製菓メーカーが仕掛けた広告戦略の成果だ。


当時の広告にはこうあった。愛の告白はチョコレートで

それまでそんな文化はなかった。でもこのキャッチコピーが浸透し、今では年間1000億円超の市場をつくっている。


つまり、バレンタインもジューンブライドも、元々の文化を利用しつつ、企業が意味づけを後から与え、市場を育てたのだ。



■ 人は物より物語にお金を払う


この2つに共通する最大のポイント。それはロジックよりロマンで消費を動かすということ。


結婚式にかかる費用は数百万円単位。それを6月に集中させるために必要だったのは、機能性ではなく、言葉の魔法だった。


雨が降る可能性が高くても

祝福の女神が日本にいなくても

お得な時期ではなかったとしても


6月に結婚すれば幸せになれるという言葉が、人の心を動かす。それがビジネスの本質だ。



■ ビジネスのヒント:意味は後からつくれる


ここから学べるのは、意味は後からでもつくれるということ。

むしろ、後づけされたストーリーの方が、人の心に刺さることも多い。


ジューンブライドという概念は、単なる言葉遊びではない。

それは、消費行動を設計し、オフシーズンを稼ぎ時に変える、文化創造型マーケティングの代表例なのだ。

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