居酒屋で知り合ったあやしい人から壺を買ってしまった理由
- yuki kato
- 7月24日
- 読了時間: 2分

あの日、会社で小さなトラブルが続いた。
メールの行き違い、部下のミス、取引先からの理不尽な詰め。
「全部俺のせいなのかよ」って思いながら、足は自然と居酒屋に向かっていた。
店の入り口で「相席でもいいですか?」と聞かれ、ぼんやりと頷いた。
座っていたのは、年齢不詳の男。
服はくたびれてるけど、どこか清潔感がある。妙に目が澄んでいた。
「なんか…人生、止まってる感じ、してない?」
開口一番、そう言われてギョッとした。
図星だった。止まってる。停滞感。ぐるぐるしてるのに、進んでいない。
不思議な「当てられ方」
会話が進むうちに、その男は、俺の性格や過去の出来事を当て始めた。
怖いほどに、的確だった。
「大学は多分、途中でやりたいことが見えなくなったでしょ」
「家族と表面上はうまくやってるけど、言えないこと多くない?」
「“ちゃんとしてる人”を演じるのに疲れてるよね」
気づけば、俺は口をつぐんでいた。
こっちの名も名乗ってないのに、なぜか心の奥まで見透かされているようだった。
壺が出てきた
「もしさ、今の自分を、ほんの少し先の未来から眺められたら、何を変える?」
そう聞かれたときに、彼が取り出したのが、あの壺だった。
手のひらにちょうど収まるサイズ。色も模様も、別に変わったものじゃない。
「これ、未来を思い出すための“スイッチ”なんだよ」
「ただ見るだけ。信じても信じなくてもいい。でも、もし“変わりたい”と思ってるなら、持っててみなよ」
値段は、1万800円。
絶妙だった。高すぎず、でも「気の迷い」では済まされない価格。
なぜ、買ったのか
正直、壺にパワーがあるかなんて、どうでもよかった。
あの瞬間に、自分の人生を“変えてもいい”と許可したかっただけなんだと思う。
誰かが「そろそろ変われよ」って言ってくれた気がした。
それが居酒屋の知らない男でも、壺でも、もうよかったんだ。
その後
壺は、今でも机の上に置いてある。
眺めて何かが変わったわけじゃない。
でも、あの夜から、少しずつ行動が変わった気がする。
朝のルーティンを変えた。
1日10分、未来の自分に問いかけるノートをつけ始めた。
転職の相談を、初めて本気でした。
あの壺は、ただの壺だ。
でも俺にとっては、「変わってもいい」と思えた夜の記憶が詰まってる。
もしあの日、壺を買わずに帰っていたら――
今の自分はいないかもしれない。
だから、言い切れる。
あれは、人生で一番意味のある買い物だった。








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